大判例

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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)1904号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔争点〕原告(商船会社)は訴外会社(大紀石綿)に土地九〇〇坪余と同地上の倉庫三棟(二九坪・二九坪・五六坪)、工場二棟(八一坪・八八坪)、事務所等一棟(四七坪)を賃貸していたが、訴外会社がこれを被告大紀産業と同日本ケミカルスに使用させていることを理由に賃貸借契約解除の意思表示をし、被告らに右物件の明渡等を求めた。被告大紀産業は、(1)本件賃貸借は訴外会社と同被告が共同して賃借物件を使用することを許す趣旨で締結された、(2)同被告の賃借物件使用につき原告は黙示の承諾を与えた、(3)賃貸借締結の際に賃借権譲渡又は転貸につき事前の包括的承諾があつた、と主張し、被告大紀産業、同日本ケミカルスは、(4)被告大紀産業は隣地を使用する被告日本ケミカルスの工場が降雨のとき浸水するので地上げ工事をする期間中一時的に賃借物件の一部(工場一棟と事務所等一棟の各一部)を日本ケミカルスに使用させたにすぎず、民法六一二条にいう転貸にあたらない、と抗争した。

〔判決理由〕2(証拠)を総合すると、次のように認められる。

(イ) 被告大紀産業は、石綿、綿、麻等各種パツキングの製造販売ならびに保温、保冷、防水工事の設計施行、その材料販売を目的として、昭和三〇年六月二〇日に設立せられた株式会社であり、訴外大紀石綿はその製造部門を担当するため昭和三一年一一月一七日に設立せられた株式会社である。右両会社はともに吉村邦彦が株式の大部分を自己または第三者の名義で所有し、会社の実権を掌握して、これを運営主宰してきた。岸田三郎も両会社の株式をかなり所有し、両会社に一応の発言力をもち、吉村と共同して、ときには単独で、代表取締役に就任したこともあつた。両会社はこのように共通の実力者によつて運営されていただけでなく、本店事務所も同室内にあり、従業員の所属、担当事務等も形式的には区別されていたが、実際上は従業員らに両会社は実質において一個のものとの意識が強く、事務処理の上でも、帳簿や対外的文書の作成等両会社を区別して処理する必要がある場合は別として、いずれの会社の事務であるかを区別することなく互に双方の事務を処理していた。

(ロ) 昭和三三年二月に訴外会社は営業を停止し、それまで同会社が工場、材料製品置場、事務所として使用していた本件不動産を、引続き被告大紀産業が材料置場として使用することになつた。もつとも、それ以前も、訴外会社の製品を置いてあつた部分は、訴外会社が製品置場として使用していたのか、同被告が材料置場として使用していたのかは、明確に識別できない状況にあつた。訴外会社は営業停止後、同年九月に解散登記をし、吉村はその頃三国石綿製造株式会社を設立したが、同会社は大紀石綿の営業を継続するためというよりは、工場従業員の失業を救済するために吉村が資金を出して設立した別会社であつて、その工場も一時的に本件不動産の一部を使用したこともあつたが、他に移転し、一年余りで営業を停止した。

(ハ) 訴外大紀石綿の営業停止後、少くとも昭和三五年二月二七日までの二年間、原告に対する賃料の支払いは、すべて被告大紀産業振出しの小切手で行われてきた。(原告は同月二〇日訴外会社に対して被告らに対する無断転貸を理由に解除の意思表示をする書面を発送し、同月二三日被告らに対して明渡請求の書面を発送したのちの、右二月二七日にも右のとおり被告大紀産業振出しの小切手を受領している。)原告は、廻り小切手と考えて受領したかどうかの点は別として、これを異議なく受領しており、不渡りとなつた事実もない。

以上のとおり認められる。右認定の事実によると、同被告の本件不動産の使用は、訴外大紀石綿からの賃借権譲渡にもとづくものと認めるほかはない。しかし、同訴外会社と法人格を異にしているとはいえ、その実体においては、一個の営業主体の内部における営業部門と製造部門としてとらえる方がむしろ適切であり、訴外会社の営業停止とこれにともなう賃借権譲渡も、この意味での製造部門の廃止と、これにともなつて従来製造部門が使用していた工場を営業部門が使用することになつたという、同一営業主体内部での利用関係の操作の関係にすぎないとみるべきである。使用の状況を比較しても同被告は単に材料置場として使用しているだけで、訴外会社の使用の態様を越えるものではない。しかも二年間にわたり同被告振出しの小切手で賃料が支払い続けられていたというのであつて、これらの事実を総合して判断すると、右賃借権譲渡は、たとえ原告に無断でなされたものであつても、原告との信頼関係を破壊するほどのものではない。従つて、原告は右賃借権譲渡を理由に賃貸借契約を解除することが許されず、その結果として、被告大紀産業は原告の承諾があつたのと同様に、賃借権の譲受けをもつて原告に対抗できる。

3 (中略)次に(証拠)を総合すると、次のとおり認められる。

(イ) 被告日本ケミカルスは本件土地に隣接する西宮原町一丁目八一番地に工場を持ち、薬品の製造をしていたが、土地が低く、降雨のときにはよく浸水した。昭和三四年六月頃からも浸水状態が続き、容易に水がひきそうになかつたので、操業にも支障をきたし、同年七月頃被告大紀産業に対して、水がひいて工場が使用できるようになるまでの間、本件建物の一部を使わせてほしい旨申し入れた。被告大紀産業は、隣地のことでもあり、本件不動産の使用状況にも余裕があつたので、原告に無断でこの申入れに応じ、事務所用として別紙目録(ヘ)の建物の一部と工場倉庫用として同(ホ)の建物一棟を、賃料月一五、〇〇〇円の定めで転貸した。期間の明確な定めはなかつたが、せいぜい工場再使用のための工事に必要な期間を見込む程度の極く短期間の臨時的な賃貸借と双方において了解されていた。

(ロ) その後被告日本ケミカルスは、将来にそなえて地上げ工事を計画したり、他に適当な移転先を物色したりしていたため、転貸状態がやや長引くことになつたが、会社の経営状況自体が悪化し、翌三五年八月二七日に解散して、昭和三六年二月末をすぎて間もなく、右転借部分を被告大紀産業に返還した。

(ハ) 右(ホ)の建物は、訴外大紀石綿が原告から賃借した当時には、かなりいたんでいて、そのままでは使用できない状況にあつたのを、同訴外会社ないし被告大紀産業において修理し、使用できるようにしたものである。被告日本ケミカルスはこれを工場および倉庫として使用したが、工場といつても機械をそなえつけたわけでもなく、ドラムかんで薬品を混合する作業をする程度のものであつた。

(ニ) 被告日本ケミカルスは、右転貸を受けたのち転借部分の一部を中野保雄にさらに使用させていたが、同人は同被告会社の取締役であり、使用していた期間も同被告の解散までの短期間であつて、使用の態様も同被告のそれと大差がなかつた。

以上のとおり認められる。右認定の事実によると、被告大紀産業から被告日本ケミカルスに対する右転貸は、隣地使用者が浸水しているのに同情して本件不動産の三分の一弱に当る部分を短期間賃貸し、一年数箇月後にはその返還を受けているのであつて、賃料も本件不動産全部の約定賃料の三分の一程度のものである。これに前記(ハ)の事情を考慮すると、同(ニ)のような事実があるにしても、右転貸行為は原告との信頼関係を破壊するものではないとすべきである。従つて、右転貸も基本となる賃貸借契約の解除原因とならない。(平田浩)

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